誰も教えてくれなかった・・・それでも今さら聞けないスーツの着方・着こなしの「基準」
「スーツの着方や着こなし・・・そう言われれば教えて貰ったことはないですね
そもそもスーツの着方にルールがあること自体知りませんでした」
ブログをご覧をいただきまして、誠にありがとうございます。
長野市中御所のテーラー・ジェントルブリーズ/ヤマギワです。
誰も教えてくれない?スーツの着方
スーツなどのオーダーに際して、お客様との会話の中で「スーツに着方ってあるんですか?」あるいは「スーツの着方なんて誰も教えてくれませんでした」というニュアンスのお声をいただきます。かく言う私もスーツの着方や着こなしなどを教えてもらったという記憶はなく、服飾への興味から独学で身につけたと言っても過言ではありません。ですから、私自身さほど服飾というものに興味がなければ‟知らずにやり過ごしていた”かも知れませんし、実際にそのような方も多いのではないかと思われます。
では、実際スーツはどのように着るべきなのでしょうか?(細かいことを申し上げますが)下記に列挙した基準や目安に準じていただければ間違いないとお考え下さい。
ワイシャツ選びの「基準」
◆ワイシャツの襟の角度はどのように選んだらよいのか ⇨
スーツの上衣のカラー(上襟)とラペル(下襟)の間に存在する縫い目(ゴージライン)の角度によって選ぶことが良いとされています。このゴージラインがワイシャツの襟の角度と平行になっていることが理想です。
◆ボタンダウンのワイシャツはどんなシーンでも着られる万能アイテムなのか ⇨
万能ではありません。ボタンダウンシャツは馬に乗って行う球技「ポロ」に由来することからカジュアルな印象となり、フォーマル(冠婚葬祭など)では避けた方が良いアイテムです。
◆ワイシャツの袖丈は上衣の袖丈より長めが良いのか ⇨
長めをオススメしています。諸説ありますが、スーツの上衣の生地の方がワイシャツより高価であることから「皮脂が上衣の生地に付着することがない」ように、ジェントルブリーズでは上衣の袖丈よりもワイシャツの袖丈の方が長くなるようにオススメしております(上衣の袖口からワイシャツの袖が1~1.5㎝出る程度)。
ネクタイ選びの「基準」&結び方の「基準」
◆ネクタイの結び方は(数種類あるうちの)どの結び方を選ぶべきか ⇨
ワイシャツの襟の角度の広さによって選んで下さい。角度が広ければ大きめの結び目(ノット)・角度が狭ければ結び目が小さくなる結び方を選択します(例:ボタンダウンのように襟の角度が狭い場合は、結び目が比較的小さいプレーンノットという結び方がオススメ)。
◆ネクタイの大剣(太い方)の長さはどれくらいが適正か ⇨
ネクタイを結んだ時の大剣の長さは、ベルトをしている場合はバックルの半分程度まで垂れている状態が美しいとされています。
スーツの着方・着こなしの「基準」 <上衣編>
◆上衣のフロントボタンを全て留めてはいけないのか ⇨
留めてはいけません。「アンボタンマナー」と言って一番下に付いているボタンは‟飾り”であり、留めてはいけないルールとなっています。なぜなら上衣というのは、一番下のボタンを留めない時に最も美しいシルエットに仕上がるように仕立てられています。
◆椅子に座っている時はフロントボタンを外した方が良いのか ⇨
原則としてシングル(ブレスト)スーツの場合は「外す」べきだと覚えておいて下さい。なぜなら椅子に座ると人間のお腹は出るため、ボタンを留めたままだと生地が引っ張られてストレスがかかります。よって着座時やクルマでの移動時(運転される場合はそもそも上衣を脱いで下さい・ここでは後部座席に座っているケースを想定)はフロントボタンを外すことが原則ではありますが、面接や目上の人を前にした時などは注意が必要です(相手方が着座時にボタンを外した方が良いことを知らない場合もあるため)。ちなみに起立時はボタンを留め、立ったり座ったりを繰り返す場合は都度‟留め・外し”を行ないます。
◆ダブル(ブレスト)スーツの場合も着座時にボタンを外すのか ⇨
外しません。ダブルの場合は前身頃の生地がたくさん使われいるため、フロントボタンを外してしまうとダラしなく(バサッと)広がってしまいます。よって起立時・着座時に限らず常にボタンを留めておきます。
◆ベスト(ウェストコート)にもアンボタンマナーはあるのか ⇨
あります。上衣同様に一番下のフロントボタンは‟飾り”という認識で留めてはいけません。ちなみにベスト着用時の上衣のフロントボタンは、留めなくても良いことになっています(留めても差し支えありません)。これは、元来ワイシャツは‟下着”を起源とすることから、ベストを着ていれば下着を露呈することにはならないためです。
スーツの着方・着こなしの「基準」 <スラックス編>
◆スラックス(トラウザーズ)の理想的な裾丈は ⇨
バブル期のように長過ぎたり、起立姿勢でホーズ(靴下)が見えてしまうほど短い裾丈はオススメしていません。左記を除く範囲でお客様とご相談・共有しながら裾丈を決めていきますが、革靴の踵(かかと)に裾が2~3㎝程度かかるくらいが適正かと考えます。
◆スラックスの裾の仕上げはシングルにすべきかダブルにすべきか ⇨
礼服などのフォーマルな席で着用するものについては「シングル(プレーン)」仕上げとして下さい。昨今の結婚式ではカジュアル化が進み‟必ずしもシングルでなくても良い”傾向もありますが、『葬』においては「祝いの席に免じて」というわけにもいかないため、シングルであることが必須と言えます。また、「ダブル(ターンナップ」はビジネスでも選ばれる方が多くなっており、折り返しがあることによる生地の重さによって(膝下がストンと落ちて)美しいシルエットを生み出すことも特徴の一つです。但し、折り返し幅は通常4㎝程度とされていますが、ご自身の身長や好みなども交えて相談されると良いでしょう。
靴下&革靴選びの「基準」
◆靴下(ホーズ)の色選びの基準は ⇨
靴下の色選びは、原則として革靴の色かスラックスの色に合わせて下さい。革靴に合わせる場合、(その多くが)黒か茶ですから黒もしくは茶の靴下を。スーツの生地色がネイビー系やグレー系でしたら靴下はそれに合わせた色味が相応しいでしょう。付け加えてお伝えしますと、『スーツスタイルにおいて男が露出して良いのは首から上と手首から先』と言われており、脛(すね)を露出することはマナー違反。よってジェントルブリーズでは、膝下までを覆う‟ロングホーズ(ビジネス用のハイソックスというイメージ)”を推奨・販売しております。
◆革靴は何を履けばよいか ⇨
どんなシチュエーションでも間違いがないのは『黒・内羽根・ストレートチップ』。靴を購入する際、店の方に「黒い革靴で内羽根式ストレートチップを探しています」とお伝えいただければスムーズでしょう。前述の通り『葬』では間違いが許されませんので、ご不幸の場ではコチラの靴一択とお考え下さい。その他、ビジネスでは基本的に黒靴であれ茶靴であれ紐靴を中心にお考えいただき、ジャケパンスタイルがOKである場合を除いてローファーは避けるべきかと思われます。
これからも『型』(=「基準」)をお伝えしてまいります
今回はほんの一部をお伝えしましたが、紳士が着るスーツ(背広)には現在に至るまでの長い長い歴史が存在します。これに比べて淑女のスーツは歴史が浅く、ほんの数十年前まではドレスを着用していた経緯からドレスの着方や着こなしには(紳士のスーツ同様に)たくさんのマナーやルールが存在しますが、スーツについては紳士ほど厳しく・細かなものは存在しません。また、多くの場合カジュアルな服装には着方や着こなしにマナーやルールは存在しませんし、(個人的には)むしろ自由に「着たいように着る」べきだとも思います。
しかしながら、今回の主題である「紳士のスーツ」には着方や着こなしのマナーやルールが存在し、それらが守られなければ非礼であったり不躾だと感じる方がいらっしゃるのも事実です。それでも着崩したい方は、既述のような決まりごとを知った上で挑戦されてはいかがでしょうか。伊達者としても知られる故18代目 中村勘三郎さんは『型があるから型破りができる・型がなければ単なる型無し』と仰いました。
私自身がテーラーという立場・あるは服好きという立場から拝察するに、今どきのスーツの着方・着こなしには目を覆うばかり。着方・着こなしを弁えてスーツに袖を通されている方は1割くらいではないかと。これらは一部の業界における‟単にスーツを売れば良い”という売り方の結果であり、その着方や着こなしを伝えて来なかった所以ではないかと。そもそもスーツの正しい着方や着こなしを知っている業界人がどれだけいるかも疑問なのですが。
ですから、きちんと『型』をお伝えしていくことも私たちの大きな役割なのではないかと考え、オーダー時やご納品時には伝えさせていただいております。(ご存知のこともあるかとは思いますが)お耳をお貸しいただけましたら幸いです。
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